K's Report!
このコーナーは、開発メンバーの知人の知人である「青年K」がモバイル赤道儀のテストを依頼され、その活用方法を探るべく展開した(時に無謀な)試行錯誤を記録したものです。これはあくまで青年Kの個人的な意見・感想ですのでご了承下さい。
2012年オーストラリア・ケアンズ皆既日食の旅
Part8・本番編
I Shot the Black-Sun! We Got it!
車から、組み立ててそのまま仕舞いこんでおいた機材達を、期待を込めながら降ろす。
車を南北に配置し、その間に機材達を並べてゆく。
問題の極軸合わせであるが、朝モヤと薄明の始まりの中で、星々はどんどん消えてゆく。結局、精密なセッティングは出来なかった。でも日食の撮影には影響を受けないレベルではないかな?こうして午前5時半、日の出の時刻を迎えた。
その少し前より、東の海岸方面から雲が湧き出していたので、日の出の瞬間は見られなかった。
間もなく、日食が始まったわけだが、それでもまだ太陽は姿を現してくれない。ままならない自然の営みに、やきもきしつつ、人間は機材の調整にいそしむ。「その」瞬間まで、たった1時間しかないのだ。
事前に、各カメラの設定一覧表を作っておいたので、それを見ながら作業を進める。
時折、太陽に目を移すが、30分前になっても日光は遮られたまま。このまま終わってしまうのか?あれだけ攻めた結果がこうなのか?
機材の調整は済んだ。そして各カメラとも、それらが最適と思われる構図を確保した。
20分前、一筋の閃光とともに雲が切れた!久々の日光は眩しさも格別。そしてようやく、雲が切れぎれになりだした。イケルかもしれない…。
いつの間にか、地元のオージー達に周りを取り囲まれる。どうやら望遠鏡で覗かせて欲しいみたい。しかし、相手をしているヒマはない。日豪友好はちょっと置いといて…。
「じすてれすこうぷ じゃすと ていく ふぉと」
と日本語で追い返す。ごめん。
隣では、M君が早々にシステムを組み上げていた。
架台はTOAST Pro。ジンバルアームを搭載。フォーサーズ規格のコンデジにシグマの150mmマクロ。これに2倍のテレコンを組み合わせて、35mm判600mm相当の焦点距離を得ているようだ。初めて見たが、なかなか使い易そうだ。
こちらも最後の調整、ピント合わせに入る。
動画の方は、古色蒼然とした重たいラックピニオン式の調整機構だが、ブレを感じながらも何とか合わせる。
静止画の方はマイクロフォーカサーとBORGの鋭い像のお陰で、精密なピント合わせもラクラク。
これが10分前の出来事。
5分前。
ここら辺から、周辺の様子の変化が加速する。風が冷たくなり、表現の難しい、しかし美しいライティングが辺りを覆う。ひばりに似た鳴き声の鳥たちのさえずりが一層激しくなる。彼らもこの異変に気付いているのだ。
ここで動画をスタート。メディアの容量の関係で、長い尺は撮れないのだ。ハイライトに焦点を絞る。
太陽の方は1分おきくらいに雲から出たり入ったり。このままでいくと最後は運の強さがモノを言いそうだ。
1分前、厚い雲の中に入ってしまった。
広角と中望遠レンズのカメラは撮影を開始させる。
これらはこのまま皆既終了まで、放置させる。きちんと仕事してくれと祈る。
直焦と動画の方は、かぶせておいた望遠鏡のフィルターをはずす。フィルターを取って、はじめて太陽がわかるくらいの厚い雲だ。
辺りが相当暗くなってきたが、雲のせいなのか、太陽が隠れているせいなのか?
30秒前、少し雲が薄くなってきた。動画の画面に目を移すと、どんどん薄くなってきているではないか!ここまで来ると太陽は凄まじい速度で細くなってゆく。もちろんスピードの変化など有りはしないのだが、実際そう感じるのだ。
興奮の中、ここで直焦静止画を開始。タイマーコントローラーのスイッチを押す。
ん?あれ~?ピーピーピー…?
一瞬、何が起こっているのか把握出来ない。薄暗い中、カメラを確認する。
セルフタイマーが動いている。しかも10秒…。アタマの血が逆流し、次の瞬間、一気に血の気が引いてゆく。やっちまった!どうやら、気付かぬうちにボタンを押してしまったらしい…。
突然「うおー!!」と隣でM君が奇声を上げた。
皆既が始まった。とりあえずカメラは放っておいて、その瞬間は肉眼に焼き付ける。カメラはセルフタイマーが終わったら動き出すだろうと期待しつつ…。
最高の瞬間に、ちょうど雲が切れた。厳密には薄い雲があるようだが、日の出以来、最も薄いことは確か。数台のカメラ達はうなり声を上げて、シャッターを切り始めた。
ダイヤモンドリングを経て、皆既のクライマックスへ突入。
美しい!特に内部コロナの輝きには目を奪われる。
見掛けの月の直径が小さいせいであろうか。これほど美しいのは初めて。キラキラ、キラキラ。この世の美の集約だ。何という美しさだ!今度来る時は詩人も連れて来よう。この美しさの表現は、詩人にしか出来ない!(※スタッフ注:K氏によると映画「コンタクト」へのオマージュだそうです)
そして、見た目が大きい!ホントに大きい!もちろん、地上の景色と比べてしまうという錯覚であることは判っているのだが…。時折覗く双眼鏡での眺めも美しいが、今回は肉眼が一番美しいんじゃないだろうか?
1分経過。再び雲が近づいて来た。カメラが心配なので、見てみる。
初期のトラブル(人間の)にめげず、なんとか動いているようだ。ひと安心。残りの時間は少ないが、しっかりと眺めておく。そして再び、ダイヤモンドリング。周りのオージー達も大はしゃぎである。
個人的には、終わりのダイヤモンドリングの方が好き。黒い太陽から一閃の光が放たれるってなんか劇的でしょ?
太陽はだんだんと元の姿へ戻ってゆく。